essay

定食屋の条件

 街の定食屋はどうあるべきか?
 最近お気に入りの定食屋でふと思った。なぜ毎日のようにここに来てしまうんだろう? 定食屋の条件ってなんだろう?

 まず、どんな街にあってもいいが、にぎやかな通りの一本裏通り辺りにあってほしい。ひっそりと控え目に、かと言って見すぼらしくはなく、どこかに筋が通っているような店構え。新しすぎるのは好みではない。ある程度の歴史がほしい。綺麗ではなくてもよいが、掃除整理整頓は行き届いていていなければならない。

 さて店に入り、絶対にほしいのはカウンター。
 男の外食は一人が多い。そんな時はカウンターがいい。へたにテーブル席で相席にはなりたくない。無口にカウンター席で食べたい。

 店はそこそこの年の夫婦で切り盛りしているのがいい。オヤジは無口でいい。とっつきにくいくらいでよい。黙々と料理をしていてほしい。常連になったからと言って、ペラペラと話しかけられては困る。
 そのかわりフロアーを切り盛りしている奥さんは、肝っ玉母さんがよい。小太りで明るく、そこにいるだけで僕の仕事のミスを許してくれそうな大らかさがあってほしい。かと言って、やはりペラペラとおしゃべりをされては困る。お客さんのことを理解していながらも、こちらがしゃべりたくない時はそっとしておいてくれる。

 定食は誠実であればよい。むしろ気取りのないカツ、焼き肉、煮魚、焼き魚などの定番がよい。野菜もたっぷり、ご飯も茶碗に大盛り、もちろん熱い味噌汁つき。お新香もついているとなおよい。
 もちろん料理が出てくるまでに時間がかかってはいけないが、かと言って、作り置きは絶対にだめだ。

 そして、意外と大事なのだが、小さなテレビなんかもあってほしい。
 NHKのニュースなどではなく、バラエティー番組なんかを気楽に流していてほしい。食事の時間くらい仕事のことは忘れて、世間のことも忘れて、頭をカラにしたい。
 銀座の有名な洋食屋に来ているわけでもないし、ましてやイタリア料理やフランス料理を食べに来ているわけでもない。適度な下世話さがほしくなる。原宿のカリスマ美容師がいる有名美容院ではなく、日曜日の午後、近所にある床屋にサンダルで行ったような安心感。

「毎度ありがとうございます」
「ごちそうさま」
 それだけの会話でいい。
 さあ、また午後から仕事、がんばるか! そんなふうに思えるのが、僕の定食屋の条件。

Copyright (C) 2009 Ryu Sawachi. All Rights Reserved.