さて、今日も昼めしはいつもの蕎麦屋でかき揚げ天せいろの大盛と決めて、ひとり暖簾をくぐった。
相席に案内され蕎麦を待っていると、前に座っていたスーツ姿の若者が店員さんを呼んだ。
若者「すみません、水もらってもいいですか?」
店員「大丈夫です」
えぇぇぇぇぇっ! そんな日本語の会話ははじめて聞いた。
「〜もらってもいいですか」、あるいは「〜してもらってもいいですか」という言葉をはじめて聞いたのは、かれこれ15年くらい前だろうか。最近はわざとジョークで使うケースが見受けられて、それはそれでおもしろいと思うのだが、フォーマルな場面でていねい語だと思って使っているひとがいまだに多く見受けられて、そのたびにため息が出る。
そして、近年よく使われているのが「大丈夫です」だ。
A「コーヒー飲みますか?」
B「大丈夫です」
A「クッキーとか大丈夫ですか」
B「大丈夫です」
どっちなんだよ!? よくこれで通じ合えると思う。
きれいな日本語を知らないひとが、相手への気遣いから自分のボキャボラリーのなかでていねいな言い回しをしようとするとこういうことが起きる。「〜してもらってもいいですか」も同じで、最近この手の言葉遣いは多い。
「ポイントカードは大丈夫ですか」、「いまお電話大丈夫ですか」など、お伺いの「大丈夫ですか」と、Noと断るかわりの「大丈夫です」があるのだが、YesかNoかをはっきり言えない傾向がこの手のフレーズをさらに増やしている原因になっているように感じる。
そう言えば食べ物を注文したあと、復唱した店員に「以上でお間違いないでしょうか」と言われると違和感があるのは僕だけだろうか。
「お〜」は言葉をていねいにするものだが、言葉によって、相手の持ち物である場合にはつけることができても、自分に所属するものだとつけられないことがある。店員が復唱したあとの「以上でお間違いないでしょうか」は、もちろん「私が復唱した内容に間違いがあるかどうか」を尋ねているわけで、「お間違い」と言うのはいかがなものだろうか。客の立場としては、「こちらが注文した内容に『お間違い』があるとでも言うのか」と怒りたくなる。どうもこれは、「以上でよろしかったでしょうか」、「以上で大丈夫でしょうか」といったフレーズがだめだとされたことによって、新たに生まれた言い方らしい。
ところで、昼時に蕎麦屋にグループでやって来て、おしゃべりをしながらだらだら食べているひとたちがどうも気に障る。これも歳のせいだろうか。
まず、注文した蕎麦が来たらさっさと食べてほしい。食べ終わったらさっさと店を出てほしい。昼時だから店の外には並んで待っているお客さんだっている。食べているのかしゃべっているのかわからないようなひとたちや、混んでいるのに食べ終わってもいつまでもおしゃべりをしているようなひとたちは、蕎麦をなんだと思っているのだろう。蕎麦がのびちゃうよ、蕎麦を蕎麦つゆにつけたまま食べるのを中断して話に夢中になるなよ、と気が気でなくなる。おまけに蕎麦を残していく。そもそも蕎麦やラーメンはひとりで食べに来てほしい。野暮ったいにもほどがある。全然大丈夫じゃない。