photoessay
#03 6月 雨だれ
雨が嫌いだと思う日は、その日の予定もその日の自分も嫌い。
雨が好きだと思う日は、その日の予定もその日の自分も好き。
結局そういうことで、仕事に行く時の雨は憂鬱だけど、
恋人と寄り添って歩く休日の雨は、かなり素敵だと思う。
ひとりで過ごす休日に、ぼんやり外の雨を眺めるのも結構楽しい。
そう言って君は、裏通りの雑貨屋を出ながら傘を開くと、
首をかしげて僕の答えを待つようなしぐさをした。
もし今度は僕が何かを言わなければならない順番なんだとするなら、
今日の雨は嫌いじゃないと答えるのが正解なんだろう。
でも、本当にそうなのかな?
僕は誰と会う日も晴れていた方がいいし、晴れていても仕事はいやだ。
そんなことを考えているうちに、君はいつの間にか先を歩いている。
大きな木の下を行くと、葉っぱから落ちてくる雨粒が、
ぱらぱらと傘に当たって、予想以上に大きな音になるのがおもしろい。
ぱらぱら、ぽつぽつ、ざあざあ、しとしと。
日本の雨にはいろんな表現があるけれど、この時期は断然しとしと。
梅雨前線が停滞してこんなしとしと雨が続いている間は、
日本中の恋人たちがデートをして雨を楽しめば世の中も平和になる。
というのが君の理論。
かなり無理があると思うけれど、そういう考え方は嫌いじゃない。
それに、傘にも気を使うと雨も楽しくなると君はつけ加えた。
それは僕のビニール傘を遠回しに責めているのだろうか。
傘の骨から落ちる雨粒で遊んだり、傘越しの風景を眺めたりしながら、
君へのささやかな想いを心の中で確かめる。
「雨だれ石をうがつ」って知ってる?
雨だれでも、長い間同じ場所に落ち続ければ石にも穴があく。
長い間根気よく努力していれば、小さなこともいつか成功する。
僕の気持ちは雨だれで、君のハートは硬くて綺麗な石なんだなあ。
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