#04 7月 夏休み |
父が膨らませてくれたウキワを腰に回した弟を従え、 水着のまま、海へ続く砂利道をサンダルで走る。 幼なじみの真之介と駿も途中から合流して、四人で競争だ。 痛いくらいの日差しと、うるさいくらいのセミの鳴き声が降り注ぐ。 背の高さほどに伸びた草の間を縫う秘密の道を抜けると、 突然目の前に青い海が広がる。 「ちゃんと準備体操するのよ」 家を出る時、母が背中で叫んでいたけれど、 これだけたくさん走ったんだからいいことにしよう。 それにちょっと格好悪い。 サンダルを脱ぎ捨てて、そのまま海に駆け込む。 僕は最近、クロールの息継ぎが上手くできるようになったのが自慢だ。 潜って貝を探したり、岩かげのカニを追いかけたり 日暮れまでたっぷり遊んだら、みんな日焼けして真っ赤になった。 まだ夏休み最初の日だから仕方ない。 「またあした」 潮と砂にまみれた体で家に帰ると、勝手口から風呂場に直行させられる。 日焼けした肩に熱い湯がしみてヒリヒリする。 夕飯は、疲れすぎてほとんど食べられなかった。 弟は食事中ほとんど寝ていて、何度も母に怒られていた。 でも食後にスイカが出てきたものだから、僕も弟も急に力がわいてくる。 おまけに、野球中継を見ながらビールを飲んでいた父が、 「あとで花火でもやるか」 なんて言うから、もう弟は大はしゃぎ。 祖母が笑いながら扇いでくれてたウチワの音、軒下に吊るした水中メガネ。 廊下から流れていた蚊取り線香のにおい、耳の奥にたまった海の水。 そんな少年の日のクラクラするような夏を、 大人になった今でも毎年さがしてしまうけれど、なかなか見つからない。 |