#06 9月 月の海 |
「ウサギがお餅をついているのよ」 夜空に浮かぶ満月を見上げて、母が教えてくれた。 あれはまだ今の家に引っ越す前だから、三歳か四歳の頃だったろうか。 つないだ手のぬくもりと一緒に、まわりの風景まで鮮明に覚えている。 でもそんな気がするだけで、本当はいろんな記憶の合成なのかもしれない。 アポロ11号によってアームストロング船長たちが月面に降り立ち、 星条旗を立てるまで、僕は月にはウサギがいると信じていた。 サンタクロースが父だったことや、 仮面ライダーに人間が入っていたことや、 好きな女の子が僕の親友のことを好きだったという事実や、 多くのことを知った年だった。 濃い色の玄武岩で覆われた月の平原を「月の海」と呼ぶ。 この「月の海」の形が餅をついているウサギに見える。 ちなみに「海月」と書いて「クラゲ」と読む。 月の海がウサギで、海の月がクラゲか。なんか素敵。 ライオン、カニ、ワニ、カエル、少女、老婆・・・ 実は月の海は、世界中いろんな所で文化、風土、風習と深くつながり、 さまざまなものにたとえられてきた。 細かい違いはあるけれど、中国でも韓国でもウサギなのがおもしろい。 そして、月には満ち欠けがあって、その姿が日々変わるからこそ美しい。 日本人はその日その日の月に綺麗な名前をつけてしまった。 なかでも立待月、居待月、寝待月はしゃれている。 夕方、立って待つうちに月が出る18日目頃の立待月。 立って待つには長いので、居て、つまり座って待つ19日目頃の居待月。 横になって待たないとならないくらい月の出が遅い20日目頃の寝待月。 でも、僕は謙虚な三日月の形が好きだけど。 さて、運命の人はいつまで待てばあらわれるのでしょう。 あなたのかぐや姫は、もうあらわれましたか? |