#10 1月 お炬燵 |
母はお炬燵と言った。祖母はおこたと言った。 そろそろだね。 冬の始めに誰かが言うと、押し入れから引っ張り出し、 僕が生まれ育った家では、春先までずっと活躍した。 テレビを見るのも、食事をするのも、勉強をするのも、 家族みんなでトランプをして遊ぶのも、昼寝をするのも、 どんな時でもそのまんなかに炬燵があった。 編み物をしている手を休めて、母がみかんを剥いてくれる。 筋をとってくれたつるつるのみかんを口に投げ込みながら、 炬燵の中でごろごろしているのはなんて幸せなんだろう。 発売されたばかりの少年コミックのページをめくりながら、 ときどきテレビのお笑い番組を見て、それからうとうと。 こんなとこで寝てると風邪引くよ。 早いとこお風呂入っちゃいなさい。 いつも叱られる。 でも毎日ここでうとうとする。 やめられない。 おばあちゃんだっていっつもここで昼寝してるのに。 父が帰ってくると急に家の中がにぎやかになる。 母が食事の世話を焼く。晩酌が始まる。 つまみをちょっといただいて、ちょっとおとなになった気分。 飲んでたのはジュースだけどね。 一度入ちゃうとなかなか出られないから、 なんでも母に頼んで取ってもらう。 またまた父に叱られる。 お前は子供のくせに炬燵にばっかり入ってて。 九時からは大好きなテレビが始まるんだ。 おばあちゃん、いびきがうるさいんだけど・・・ |